俳句という遊び 小林恭二 岩波書店 1991年7月





随分昔に読んだ本をまた引っ張り出しました。読後感からいえば、あの頃よりもずっと面白いです。これだから本というものは不思議なものなのです。
著者は安部公房によく似たタッチの『電話男』という小説で突然文壇に躍り出た人です。かなり前なので、もうほとんど記憶にないかもしれません。その後いくつかの小説を書き、再び俳句の世界へ戻っていきました。元々大学の学生俳句会に長く所属していたのです。
この本は句会の様子をそのまま再現したものです。とにかく俳人たちの世界の奥深さを感じさせます。
ものを見る目の確かさとでも表現したらいいのでしょうか。
参加者は飯田龍太、三橋敏雄、安井浩司、高橋睦郎、坪内稔典、小澤実、田中裕明、岸本尚毅の各氏です。みなそれぞれの流派で多くの人を指導する立場にいる俳人ばかりです。よくこれだけの人を一同に集められたというのが率直な感想です。
句会は90分の中で、それぞれの題にあわせて句をつくり、それに点数を入れます。マイナスとプラスの点数が入ることで、一種のゲーム感覚で句の優劣を決める訳です。しかしいずれ劣らぬ名手揃いですから、そのレベルは自ずと高いものになりました。
さてその中でもぼくの気にいった句は次の通りです。
春の世のこんにやく薄う薄うせよ
咲きつぐや梅桜桃杏村
百千鳥雄蕊雌蕊を囃すなり
虫鳥のくるしき春を無為(なにもせず)
俳句というものは本当に面白い不思議な文芸の形だと思います。
2日間の句会の間には、飯田邸での楽しい酒宴があり、料理のもてなしもありました。そうしたことがまた言葉の深さを感じさせる機会になるのでしょう。この本を読んで、本当にしみじみとそのことを実感しました。こういう句会をいつか友人とやれたらいいなと本気で思いました。