輝く日の宮 丸谷才一 講談社 2003年6月





丸谷才一の本は10年ぶりだそうです。前作の『女ざかり』は新聞社の女性論説委員の話で面白いものでした。その後、吉永さゆり主演の映画にもなり、話題作となりました。しかしあれからもう10年が経過したとはとても思えません。
それほどに10年という歳月は短いものなのでしょうか。
この作品は縦軸に源氏物語の成立過程に対する推論、横軸に女性国文学者の日常を配してあります。それらが縦横に組み合わされて、不思議な味わいをもつ小説になっています。
もとより丸谷才一の小説技法については定評のあるところです。なんとなく読み始め、どんどん作中の人物に引き寄せられていきます。
圧巻は女性国文学者2人によるシンポジウムの場面での丁々発止です。半分、嫉妬を含んだ複雑な女性の内面をみごとに描いています。
タイトルの『輝く日の宮』というのは、『源氏物語』の桐壺の次にあったのではないかという巻の名です。
藤壺の宮との密会が2度あったという源氏の様子がなぜ、2度目だけ書いてあり、1度目がないのかというところから推理して、当然書かれたものの、当時の摂政関白であった藤原道長がこれを破棄したというものです。
この点に関して、実に詳しい推理がなされ、ここもまた読み応えのあるところです。紫式部と道長がどのようにして出会い、どのように関係を持ったのかというこに関しても詳しく推論がなされています。
一つのキーワードは紙です。400字詰めにすると2000枚近い作品をどのように紫式部は書いたのか。またそのための紙をどのように調達したのか。
当時は今からは想像できないほど、紙というものが高価でした。当然そこに見えるのは道長の影です。むろん彼は自分の娘、彰子のサロンに紫式部を呼ぶための取引もしたと考えられます。
出仕後、『蜻蛉日記』を貸して読ませたことで、さらに『源氏物語』は複雑な陰影をはらみ、最初の系列とは違う、複線の系列の話が挿入されました。
そのようなことも全てこの本には書かれています。主人公の国文学者の情事とからめながら、話は複雑に推移していくのです。どこまでが真実かということを考えてしまうと、少し興味がそがれるかもしれません。これは純粋に作品として楽しみながら、時に『源氏物語』の持つ複雑な陰影を味わうという小説のスタイルなのかもしれません。
国文学の好きな人にとっては、なかなかに面白いスリリングな小説であると思います。